「ごめんなさい、今度から必ず連絡します。やらせてください」
少ない会話で状況を理解した虎哲は、七緒を庇うように、一歩前に出た。
「こいつは悪くなぁで。俺が連れ出したんじゃ。荷物みな、持ってんかった」
おっかさんが何か言う前に、七緒は靴を脱いで、もう一度頭を下げると、ぱたぱたと階段を上がっていった。
数秒間の沈黙の後、同時に顔を上げてしまい、目があった2人は大変気まずい思いをした。
「……あいつ、家事手伝っとるん?」
しぶしぶ口を開いたのは、虎哲である。あいつ、と言いながら階段を見たので、おっかさんは頷いた。
「ああ。自分からね、言ってくれた。いい子だろ」
何故かちょっと自慢気な管理人を、虎哲は睨む。
「あがなふうに叱ることなかろ」
「けじめはつけて欲しいって言っただけだよ」
「あいつ多分、落ち込むぞ」
一瞬、頷きかけて、おっかさんは目を細めた。
「珍しいね。お前が誰かを庇うの」
「……今回なぁ、わしが悪い」
自分が、あの連中に絡まなければ、彼らは学校に訪ねてくることなどなかった。
今回は、沖田が虎哲に興味がなく、柳井が自重の利く聡い奴だったからこそ、こんなに丸くおさまっているのだ。
本当の意味でお礼参りをされていたら、と背中が寒くなる。
こんな形で、他人に迷惑をかけると思わなかった。
「……わし、もう よう喧嘩せん。自分からぁ、売らん」
「おっ」
呟いた言葉に、おっかさんが嬉しそうな声をだしたので、しまったと思った。
骨ばった、けれど綺麗な手がのびてきて、容赦なく髪をくしゃくしゃにする。
「やめぇや!」
「聞いたけぇな! お前、もう問題起こすなよ! ナナのためにも!」
1年生の友達が出来たなぁ、良かったなぁ、と勝手に喜んでいたら、力が入り過ぎたようで、虎哲が結構切羽詰まった声で「いてぇよ!」と言った。
「あんた、なんでそがぁに加減を知らんのん! ていうか、あいつのためじゃねぇ」
賢治は、不機嫌そうに言う虎哲から手を離して、階段を振り返った。
管理人とはいっても、10歳くらいしか年は離れていないので、お兄さん役みたいなもんである。しかし、それを職としているからには、締めるところは締めなければならない。
「(もう何年もやってるのに、ああいう子を叱るのは慣れないなぁ……)」
例えば雪弥や直哉のようなタイプなら、ふてくされながらも反省して、それでお終い。後腐れはない。
けれど、七緒のような真面目な生徒を叱ると、その後が気まずいのだ。彼のようなタイプは、気に病みやすい。
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